金沢家庭裁判所 昭和44年(家)415号 審判 1969年6月03日
主文
本件申立をいずれも却下する。
理由
一、申立人は「事件本人の親権者を相手方らより申立人に変更する。」との審判を求め、その実情として主張するところは、申立人は昭和三八年七月一〇日相手方美子と協議離婚し、長女である事件本人の親権者を同相手方と定めた。その後同相手方は昭和四〇年一二月一一日相手方音松と婚姻し、相手方音松は昭和四一年二月一七日事件本人と養子縁組をした。したがつて、事件本人は相手方両名の共同親権に服している。ところで、相手方美子は、現在工場に勤務し、一日二交替制で働いているので、事件本人の養育が十分になされていないと思われ、一方、申立人は、実父として唯一人の子である事件本人の養育をしないことは道徳的にも、良心的にも忍びえないところであり、この際申立人において事件本人を引き取り、立派に養育していくことが実父としての義務または心情倫理であると考えているので、本件申立に及ぶ。というにある。
二 記録添付の各戸籍謄本ならびに申立人および相手方両名各審問の結果によると、申立人と相手方美子は昭和三八年七月九日長女である事件本人の親権者を同相手方と定めて協議離婚したこと、相手方音松は昭和四〇年一二月一一日相手方美子と婚姻し、同四一年二月一七日事件本人と養子縁組をしたことが認められる。したがつて事件本人は相手方両名の共同親権に服するものといわねばならない。
そして、親権者でない実親たる申立人が事件本人の養親たる相手方音松に対し、事件本人の親権者を同相手方より申立人に変更することを請求しうる法律上の根拠はない。
次に、父母の離婚によつて親権者を父母の一方と定めた場合に、民法第八一九条第六項は「子の利益のため必要があると認めるときは、家庭裁判所は、子の親族の請求によつて、親権者を他の一方に変更できる。」旨規定しているが、かかる変更が許されるためには、子がなお親権者と定められた父母の一方の単独親権に服している場合に限られ、親権者となつた父または母が第三者と婚姻し、その配偶者となつた第三者が子と養子縁組をしたような場合には、子は親権者となつた父または母とその配偶者である養親との共同親権に服することとなるから、子の親族はもはや、上記法条により親権者の変更を求めることができないものと解すべきである。けだし、この場合親権者でない実親より養親に対し親権者の変更を求めうる法律上の根拠のないことは上叙のとおりであるから、仮に親権者と定められた父または母より他の一方に親権者の変更が認められるとすれば、二名の男性または女性が子に対して親権を行使することとなり、その間に衝突を生ずるおそれがあり、子の福祉に適合しないことが明らかであるからである。
したがつて、相手方美子に対する本件申立も、その余の判断をなすまでもなく失当である。
よつて、本件申立はいずれもこれを却下することとする。
(家事審判官 柴山利彦)